大判例

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広島高等裁判所 昭和28年(う)86号 判決

控訴趣旨第一点(底引網の没収に対する憲法違反の主張)について。

原審が中型機船底曳網漁業取締規則二七条二項を適用して、差押にかゝる底曳網一篠を沒収する旨の言渡をしたこと及び右底曳網が八興漁業株式会社の所有に属することは論旨指摘のとおりである。而して右規則二七条二項は「前項の場合において犯人の所有し又は所持する漁獲物、製品、漁船及魚具は之を沒収することを得」と規定し違反にかゝるこれらの物件につき、その所有者が何人であるかを問はず、犯人の所持する限りこれを沒収し得ることとした点において刑法一九条の沒収規定に対する特別規定をなすものであり、その沒収が必要的でなく裁量的である点を別にしては、関税法や酒税法等の沒収規定と類を同じくするものである。

而してこのような特別規定は営利的性質を帯びるこれらの法規違反行為の犯人が、他人の所有にかゝる物を利用して犯行をなすことにより、その物の沒収を免れて、更に犯行を繰返す等のことを防止するため、その取締の必要上刑法の沒収の規定人を排除して、当該物件を犯人が所持する限り、所有関係に拘らずこれを沒収しうることとしたのであつて、必ずしも憲法違反と断定してしまうわけには行かない。

しかし乍ら、その結果、犯人以外の者が所有者である場合には、その所有者の権利を奪うことになることを考えれば、これらの規定により無制限に沒収の言渡ができるものと解することは、許されないのであつて、刑事責任の条件として故意又は過失を必要とすることに鑑みるときは犯人の違反行為に対する沒収の効果を犯人に非ざる所有者に及ぼすことについては、少くとも所有者の過失ある作為又は不作為により、その物が当該違反行為に供し又は供されんとしたことを必要とするのがその規定の精神であるといわねばならない。従つて犯人がその物の所持を強窃盗により若しくはその他権利者の意思によらずして取得した場合、又は所有者が、その物が当該違反行為に供し又は供されんとすることを防止するために、必要且十分な措置を執つた場合には、その物を沒収することはできないと解すべきである。斯く解しても、なお、右沒収規定及びこれに基く沒収が憲法違反であるとの議論がありうるであらうが、それは我憲法二九条の規定の範囲外の問題でむしろ憲法三一条の規定との関係に属するものである。しかしこの点についてはその沒収は所持者たる犯人に対する刑罰として言渡されるものであること及びそれは刑事訴訟法の規定する手続に従い裁判によつてなされることを考慮すると、憲法三一条に違反するとは云えない。尤もその結果が所有者の権利を奪うことになるに抱らず、右裁判手続において所有者が自己の権利を防衛する何等の機会をも与へられないことは苛酷であると認めざるを得ないが、不法な沒収に対しては、所有者は国を相手とする民事訴訟法によつて救済を求める方法は存するのである。

以上の見地に立つて、原審の沒収の言渡の違法なりや否やを判断するに、本件記録によれば被告人等は何れも八興漁業株式会社所有の第一八興丸及び第二八興丸に乗組み、同会社の業務に関して本件犯行をしたものであり、その給与制度が歩合制をとつていたことが本件犯行の一因をなしていると認められるからたとい出漁にあたり、右会社の取締役等が違反なきよう注意したとしても、それだけでは無過失として沒収を免れる理由となすに足りず、原審が前記規則二七条二項により本件底曳網一篠を沒収したことは、何等憲法に違反するところはなく、又右規則の規定の適用を誤つた違法があるとも認められないのみならず、本件犯行に照して不当であるともいえない。

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